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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)167号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人四宮久吉同小川徳次郎の上告趣意第一點について。

原判決が判示事実を認定する證據の一つとして原審證人パウル・シャンスキーの證言を引用していることは所論のとおりである。そして右證人は連合国軍隊に所屬する連合国人であること及び原審において右證人を訊問するに際し裁判長が僞證の罰を告げて宣誓を爲さしめたことは原審公判調書の記載により明かである。しかし連合国軍隊に所屬する連合国人でも日本の裁判所の法廷で證人として訊問し得ない譯ではない、唯連合国人はその意思に反して強制的に證人としてこれを訊問することはできないが任意に出廷して證人として供述する場合は日本の裁判所がその者を訊問して差支えないのである又日本の裁判所がそれ等の者を宣誓せしめて訊問できるかどうかの問題については裁判所はその證人に對して訊問前に宣誓することを欲するかどうかを聞いて證人が宣誓することを欲すると答えた場合には宣誓の上訊問することができるのである、但しこの場合でも裁判所はその證人に對して偽證の罰を告げることは許されないのである。そこで原審公判調書をみると前記の證人は在廷證人として立會檢事から訊問の請求があったもので原審は右請求を容れて同證人を宣誓せしめて訊問したのであるがその訊問が證人の意思に反して強制的に行われたものであるとみられる事跡はすこしもないのである、又右宣誓に際して裁判長が宣誓を欲するかどうかを聞き證人が宣誓を欲する旨答えたかどうかの點については公判調書には何等の記載はないが裁判長が宣誓を強いたものとは認められないから右證人は自ら進んで宣誓したものと認められるのである、ただ原裁判長は右證人に對し僞證の罰を告げているのであるが連合国人の僞證罪を日本の裁判所において審判し得べきものではないのであるから僞證の罰を告げることは許されないのである、しかしそのことのために同證人の證言の證據能力を否定し去るべきではない、然らば原判決が右證人の證言を本件事実認定の證據としたことは正當であって論旨は理由がない。

同第三點について。

しかし賍物故買罪は犯人が賍物たる情を知って買受けることを承諾しその引渡を受けた以上その目的物の數量やその代金額について具體的の取り極めがなくても成立するものである、よって原判決擧示の證據によって本件事案をみると判示の日相被告人中島から同人の運転していたジープのガソリンタンクの中にあるガソリンを買わぬかと申し出た爲被告人小泉は賍物たる情を知りながらこれを買うことにして自宅から石油空鑵とゴム管とを持ってジープの置いてあるところに行き右中島がそのゴム管をもってガソリンタンクから石油鑵にガソリンを注入し石油鑵に約二、三ガロン入った際偶々同所を通りかかったパウル・シャンスキーに発見逮捕されたことが明かであるから被告人小泉は相被告人中島から賍物たるガソリンをその情を知りながら買受けることを承諾したものでありそのガソリンは被告人小泉が自宅から持ってきた同人の石油鑵に注入されたのであるから右注入と同時に右ガソリンの引渡を受けたものである、然らばその目的物の數量や代金額等が具體的に取り極められなくとも被告人小泉に對して賍物故買罪が成立するのである、論旨は被告人小泉はガソリンを受領していないと主張するけれどもそれは原判決に副わない主張である又論旨は本件被告人両名共百圓位の闇値で賣る心算であり買う心算であったが數量や價格については全く何等の具體的な交渉がなされていないのであって賣買についての單なる下交渉の程度で賣買は成立していないから本件犯罪は不成立であると主張する、しかし前に説明したように被告人小泉は相被告人中島から本件ガソリンを買受けることを承諾したものでありそしてその引渡を受けているのである、その數量は價格について具體的の交渉がなされていないとしても既にその買受を承諾し引渡を受けた以上それをもって單なる賣買の下交渉の程度で本件賍物故買罪が不成立であると言うことはできないのである、然らば原判決が被告人小泉を賍物故買罪として處斷したことは正當であって論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴施行法第二條舊刑訴第四四六條により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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